第63回 関東地区高等学校PTA連合会大会 神奈川大会

平成29年7月7日(金)8日(土)
関東地区高等学校PTA連合会 神奈川県立高等学校PTA連合会

第5分科会 コミュニケーションとPTA

1部 2部

「これからの社会を生き抜くためのコミュニケーション能力とは何かを学び、心ふれあうひとづくりを推進する」

講 師
東京工芸大学 芸術学部 教授 大島 武(オオシマ タケシ)
テーマ
「コミュニケーションの基礎」

葛山:皆さま、おはようございます。朝早くから当分科会に足をお運びいただきありがとうございます。私は本日の第5分科会、司会を務めさせていただきます関東神奈川大会実行委員の葛山と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

 今日の予定は開会の言葉に続きメインイベントの「親子のコミュニケーションとキャリア教育等」に関しての参加型シンポジウムということで、大島先生にご講演を頂く予定となっております。講演の終了は11:40を予定しております。途中で大島先生のほうから前半と後半、皆さんの反応を見ながら休憩を入れされていただくという予定なっておりますので、休憩時間ちょっと多少前後するかもしれません。よろしくお願いいたします。

 まず初めに、開会の言葉を神奈川県立大和南高等学校PTA会長の大串弥生より申し上げます。大串さんよろしくお願いします。

大串:皆さま、おはようございます。ようこそ神奈川へおいでくださいました。そしてこの第5分科会を選んでいただき誠にありがとうございます。ただ今より第63回関東地区高等学校PTA連合会大会神奈川大会第5分科会を開会いたします。

葛山:ありがとうございました。開会に続きまして、これより第5分科会を始めます。本日、ご講演をいただくのは東京工芸大学芸術学部教授、大島武先生でございます。せんえつながら、私より大島先生のプロフィールをご紹介いたしますと、もう皆さんご存じの方大勢かと思いますが、1963年生まれ、一橋大学社会学部をご卒業され、ロンドン大学インペリアル校、経営大学院終了。日本電信電話株式会社で勤務され、その後、東京工芸大学教授。専攻はビジネス実務論パフォーマンス研究。大学での研究活動の傍ら、コミュニケーション理論をベースにした実践的な研修の企画、実施。地域での講演活動などを幅広くこなされ、2003年には優れた大学教員に贈られるベストエデュケーターオブザイヤー、全国大学実務教育協会の賞を受賞されております。

 お父さまは映画監督の大島渚さん、お母さまは女優の小山明子さんです。それでは先生、ご登壇よろしくお願いいたします。

大島:皆さん、おはようございます。大勢の方を前にとても緊張しております。ご紹介いただきました東京工芸大学の大島でございます。実は私今日、本職の東京工芸大学のイベントがあって、一応大学の中で学生部長っていう職に就いているので本当はそっちに出なきゃいけなかったのです。だけど、どうしてもこの講演させていただきたかったので、ちょっと大学側と交渉して、しかも関東の高校のPTAのものすごくおっきい大会ですよっていうことで、「じゃあ、大学の宣伝をしてくれるならいいですよ」ということで言われてまいりました。ですので、皆さん今日の内容忘れちゃってもいいのですけど、ぜひ東京工芸大学をですね、確か大会要領75ページに小さな広告が出ておりますので、ぜひ覚えて帰っていただければと思います。

 では、お話のほうですけれども、まあコミュニケーションとPTAということで、もちろん子どもとどう対処するかって一つ大事なテーマだと思うのですけれども、大人同士、私たちが良好なコミュニケーション、夫婦のコミュニケーションもそうですし、地域のコミュニケーションもそうです。そういったもので我々がしっかりやっていると、まあ子どもはそれを見てついてくるんじゃないかなっていうこと。それがこの「親が手本を示そう」っていうところの副題に入れさせていただいたところです。そして最終的には、もっと分かり合うためにということを考えております。

 で、今日はトータルで11:30までのまあ2時間弱なんですけれども、大体前半1時間ぐらいお話をさせていただいて10分の休憩で後半になります。で、一応参加型シンポジウムとうたっておりますので、もしかしたら私が皆さんにちょっと問い掛けをしたり、ゲームとかクイズとかもちょっと入れますので、ぜひ一応そちらのほうもお付き合いいただければと思います。それではお話を始めさせていただきます。

 まず最初にですね、「コミュニケーションは誤解の連続なの?」っていうお話をさせていただきます。これが大学の授業で一番最初に見せるコミュニケーション理論の図です。皆さんのお手元の資料にも同じようなイラストが描かれているかと思います。「見てごらん、女の人が男の人に話し掛けてるように見えるでしょ。これ、コミュニケーション学ではメッセージが飛んでいるっていうんだよ」と教えると、学生は「先生、メッセージ分かります。伝えたいことでしょ」。「うん、そうだね。メッセージは伝えたいことだね。じゃあ、もうちょっと見てみよっか。コード化と解読っていうことが行われているよ」って教えると学生はちょっとびっくりした顔をします。「先生、解読は何となく分かるけど、コード化ってなんですか?」。「うん、コード化とは記号のことだよ、コミュニケーションは全て100パーセント記号でやっているんだよ」って教えると学生はちょっとびっくりした顔をします。

 皆さんはご存じでしたね、コミュニケーションは100パーセント記号でやっているっていうことを。初耳の方もいらっしゃいますかね、記号ですよ。記号、どんな記号? はい。皆さまは今私が言っていることがおおむね理解できると思います。それはなぜでしょう?  それはこのお部屋にいる私たち全員があるコミュニケーション上の記号のルールを了解しているからです。主なものは言語ですね、もっと言えば日本語。私たち全員がそろいもそろって日本語が分かる人々なので、私が日本語のルールにのっとって言葉を発しますと、それが皆さまの脳を刺激して、「あっ、これはこういう意味だね」といちいち解読していらっしゃいます。そういうことを私たちはとても自然にできるので、あまり普段は意識しません。

 「ジュマペルタケシオオシマ」。「ヴィーゲーエスイーネン」。意味分かりましたか? 最初のはフランス語で後のはドイツ語です。多くの方はドイツ語の音のルールが分かりませんので、「ヴィーゲーエスイーネン」っていう音を聞いても、「何がいいねん」って思ってしまいます。つまりはそういうことですね。別に私、フランス語もドイツ語もできるわけじゃないんですけどね。今のやつだけちょっと覚えただけです。

 そう、日本語という、主に、そういう言語という記号でしゃべっている、伝えている。じゃあ、私が今からある記号を言いますので、皆さん解読していただけますか? 短い言葉ですよ、「犬」。犬ですよ、犬ご存じですか? 犬はどんなもんでしょうか? 照れるようなもんじゃないでしょう、犬は。

A:動物。

大島:犬は動物ですね。男性の方、犬は?

B:ワンと鳴きます。

大島:ワンと鳴きます、いいですね。犬はどうでしょう?

C:ペット。

大島:犬はかわいいペットですね。犬は?

D:いろんな国の種類がある。

大島:いろんな国。いろんな種類がありますね。はい。犬は?

E:かわいい。

大島:犬はかわいいですね。犬は?

F:小さいのも大きいのもいる。

大島:小さいのも大きいのもいますね。犬は?

G:人間の補助をしてくれる。

大島:人間の補助をしてくれる。なるほど。犬は?

H:番犬になる。

大島:番犬になりますね。じゃあ、犬は。

I:癒し。

大島:まさに癒しですね。はい、ありがとうございます。見事に皆さんに今、「犬」を解読していただいたんですけど、どうですか今の答え? 癒しだよ、番犬になるよ、人間の補助もする。かわいいよ、ペットだよ、動物だよ。ね、いろんなのがありましたね。はい、全員正解です。

 私は今、「犬」という言葉を発して何の話がしたかったかっていうと、ワンワン鳴く動物の話がしたかったのです。皆さん、全部正しいこと言いましたよね、変なことおっしゃった方、一人もいないでしょ。コミュニケーションうまく取れていますね。犬といえば、ワンワン鳴く動物の話だ。ここまではみんな一緒なんですね。今日、大体700人ぐらいの方がいらっしゃるって聞いていますけれども、700人全員、日本語分かる人ならば、「犬」って誰かが言ったら、ワンワン鳴く動物だなって思います。

 でもどうでしょう、ペットっておっしゃった方がいますね。癒しって言った人もいます。かわいい、番犬、家で飼う愛玩動物のイメージだった方が多いですね。一方、人間の補助をするっておっしゃった方もいます。そういう方は、例えば盲導犬とか介助犬とかをイメージしていたのかもしれません。ペットと介助犬はだいぶ違いますね。あと、野良犬もいるし、かわいくないのもいるし、全然癒しにならないような犬もいるのではないでしょうかね。

 この話するとすぐ思い出すのが、私がずいぶん昔、長野県の日本語学校で講演して、「犬」って言ったら、男の子が「おいしい」って言ったんですよ。中国からの留学生でした。興味持ってね、いろいろ質問したんですけど、やっぱりね、中国は広いですね。日本の関西薄味とか、そんなスケールのちっこい話じゃなくて、やっぱり山間部と沿岸部では、とても同じ国とは思えないぐらい食文化が違って、彼の出身地域はかなり犬食が一般的。まあ食文化ですからね、別に構わないと思うんですよ。

 犬といえば、ワンワン鳴く動物だっていうところまではみんな一緒なんなのだけれども、かわいいペットだと思う人、盲導犬や狩猟犬がイメージされる人、犬が大っ嫌いな人、犬食べたい人。700人いたら、700通りの解読。こちらの方が考えている犬と後ろの方が考えている犬は絶対に違うものなのです。コミュニケーションは考えるきっかけ。

 で、さてコミュニケーション学では、要するにコミュニケーションっていうのは記号のやりとりである。「犬」っていう音を聞いて、「ああ、ワンワン鳴く動物」、そういうふうに解読が行われているから、ある意味、誤解があって当たり前と考えるのが基本なのですね。

 私たちよくあるじゃないですか、言ったつもり聞いたはず。「話がうまく通ってない」と腹が立ったり、「何でこんなことになっている」みたいなことがあるんですけど、コミュニケーションというのは、基本的に記号のやりとりであって、そのやりとりがうまくいかない、誤解が生まれるというのはコミュニケーションのむしろ基本というか、当たり前みたいなことで。そういうふうに考えたほうが、逆に気が楽になるという部分もあります。

 それがコミュニケーション学の基本的な立場なんですけど、それを知ったからといって皆さん、明日からの生活に役立ちませんね。コミュニケーションは記号のやりとりなのだよ、誤解があって当たり前だよって今日勉強してもあまり役に立たないじゃないですか。どうしたらじゃあ、誤解とかズレを減らすことができるでしょうかね。

 それがフィードバック。フィードバックはいろんな領域でいろんな意味で使われますが、この場合はメッセージを受けて反応すること。「昨日、犬がいてさ」って僕が話し掛けたら、こちらの方が「どんな犬よ」って返す。これがフィードバックです。そうすると、私には私のしゃべる順番があったのですが、「どんな犬?」って聞いてきたから、「あっ、この人は犬の種類とかが気になるんだな」って気付くので、自分のしゃべる順番を変えて、「小さい白い犬だったよ」とかね。

 そういうふうに、メッセージとフィードバックを頻繁に繰り返すほうがコミュニケーションはうまくいくというふうに一般的に考えられます。言いっ放し聞きっ放しは良くない。常に会話のキャッチボールをすることが、やはり大事なんじゃないかなと思います。

 皆さん、林修先生を知ってますよね。テレビで今でも見ない日はありませんよね。私、林先生のファンで、あんなふうに上手にしゃべれるようになりたいなあっていつも思っているんですけれども。林修先生が、「今でしょ」で一世を風靡(ふうび)してテレビに出始めの頃ね、3~4年前ですよ。あるテレビ番組でこんなことをおっしゃっていたのがとても印象に残っているので、今日紹介したいと思います。『教えて林先生』っていうコーナーがあってね、視聴者からのお悩みに林修先生が答えるのですけど。どんなお悩みだったかっていうと、相談者は中学の先生でした。「私は中学校で教師をしています。授業はうまくできるんですが、生徒から質問が出たときにどうしてもすっきりとしたうまい答え方ができなくて、何かうまくいきません。どうしたら生徒から質問が出たときに、上手に的確に答えることができるようになるでしょうか。林先生、本業、予備校の講師ですから教えてください」。

 それに対して、林修先生、何て言ったかと思います? 「質問が出るような授業しているからいけないんです。私の授業は完璧ですから、質問は一切出ません。ご相談者は授業うまくいっているって書かれてるけど、授業全然うまくいっていませんよね。あなたの授業に分かりにくいところ、不完全なところがあったから質問が生まれちゃったんで、質問が生まれた時点でそれは授業の失敗です。あなたはまず授業を改善してください」ってこう、林先生おっしゃったんです。

 どうでしょうね? かっこいいと思いつつ、私ちょっと違うなあと思ったのです、その話聞いて。やっぱり質問っていうのは出たほうがいいです。なぜか? 人はどんなとき質問するでしょうか? 人はまず相手の話に興味がないときは質問しませんね。スルーしたほうが楽だもん。もう1つね、人は相手の話が全体的にぼやっとしていてよく分からないときは、実は質問しないんです。だってどこを聞いたらいいか分かんないから。人が質問するのは、相手の話の8割、9割が理解できていて、あとここが分かると100パーになってすっきりするっていうときに質問します。すっきりしたいから。

 ですから、皆さんがお仕事の場面でも地域活動でも、「じゃあ、この場合はどうなるんですか?」って相手が質問してきたら、めちゃめちゃいいサインです。めちゃめちゃいいサイン。皆さんの説明はとても分かりやすくて、相手は興味を持っていて、あとここを分かって、完璧に分かり合いたいっていう意思表示だから、質問が出るのはとてもいいことです。ぜひコミュニケーションのフィードバックを大切にしていただきたいと思います。

 さあ、コミュニケーションは記号のやりとりっていうところまでやりましたが、実はそれだけではございません。

 コンテキストっていうのがあります。これはね、コミュニケーションの背景にある事情とか状況のようなものをひっくるめてコンテキストと呼びます。例えば初対面であるとか、1人が大勢に向かってしゃべっているとか、今職場でクレーム受けている真っ最中とか、いろんなのありますよね。中学の同級生に30年ぶりに会って、「おお、懐かしいなあ」とか。今、山手線の中だから、あんまおっきい声でしゃべるのよそうよとか。そのコミュニケーションが発生する場面とか状況のようなものをコンテキストというふうに呼んでいます。

 で、コミュニケーションの主役はもちろんメッセージなんですけれども、案外これが大事なのね。メッセージよりもコンテキストが大事な場合が世の中には多いんです。例えば今ですね、今皆さん私の話を熱心に聞いてくださってとてもありがたく思うんですが、なぜ聞いてるんでしょうね? 私の話がためになるから聞いているわけではないですよね。PTAの大会で今、分科会に出ているというコンテキストが一番重要です。皆さんの行動を規定している、皆さんが私の話を聞いているのは、私の話が素晴らしいから聞いてるんじゃなくて、講演だから、分科会だから聞いてる。絶対そうですよね、違いますか?

 いや、ちょっと考えてみてください。じゃあ、桜木町の駅を降りたら見知らぬ中年男が近づいてきて、「お姉さん、お姉さん、コミュニケーションの話してあげよっか。聞きたい?」。「後ろのお姉さんどうですか? コミュニケーション重要でしょ、僕専門なんですよ。大学で専攻してるんです」。どうですかね? 見知らぬ中年男が近づいてきて、皆さんの耳元でコードとかコンテキストとか言って、「ああ、いい勉強になるわ」って思う? この際だから勉強しようって気になりますかね? 駄目ですよね、そんなの。つまり、今私がしゃべっていることは講演、分科会っていうコンテキストには合っているけれども、時と場所を間違えてしゃべると相当気持ち悪いっていうことがご理解いただけるかと思います。

 何が言いたいかというと、正しいことならいつ言ってもいいってわけでもないっていうことね。僕の話も、「ああ、大学の先生の講演なんだ」って思えば何とか聞けるけれども、変な場所で聞かされたら、「こいつ大丈夫か?」。

 お子さんに何か注意するときも、今まさに注意したほうがいいっていう場面もあるかもしれないし、少し冷却してから注意したほうがいいかもしんないし。ちょっとメモで渡したほうがいいこともあるかもしんないし。たとえ皆さんのほうが正しかったとしても、いつでも言っていいっていうわけじゃない。やっぱりコンテキストに合ったコミュニケーション、メッセージを発しなければいけないということです。

 コンテキストに合ったメッセージ、分かりやすい言葉で言うと、これとこれがうまく合ってないと人は何て言うんでしょうね? 「ちょっと空気読みなよ」ってあれですね。理屈っぽく言うと、メッセージとかコンテキストになるんですけど、われわれの日常の言葉で言えば、空気を読んでメッセージを発信しましょうということが言えるかと思います。コミュニケーションの理論は、これ昔からある古典的な理論なので、もしかしたら皆さんどっかでお聞きになったことあったかもしれません。

 では、次に進みたいと思います。コミュニケーションの第一歩、「分かりやすい話をする」ということです。そこで、今日は参加型のシンポジウムということですので、ぜひ皆さんに参加していただきたいんですけれども、今からちょっとしたゲームをしたいと思います。どんなゲームかといいますと、皆さんのお手元の資料6ページですね、最後のページです。最後のページに枠があるじゃないですか。

 このページを使ってゲームをやらせていただきます。よろしいですか。で、ちょっとゲーム、アシスタントが必要なんですけれども。そうですね、どうしようかな。この中から選ぶのってすごい大変だな。でも、なんか絶対、選んだら恨まれるから。じゃあ、皆さん恨みっこなしでいきましょう。私とじゃんけんし続けて、負け続けた人が1人アシスタントで上がっていただきます。よろしいでしょうか。

 それではいきます、最初はグー、じゃんけんぽん。私、パーです。すいません、グーの方もう一回お願いします。はい、いきます、最初はグー、じゃんけんぽん。私、チョキです。パーの方もう一回お願いします。はい、いきます、最初はグー、じゃんけんぽん。パーです。はい、グーの方立ってください。あと何人ぐらい負けてますか。まだいますね、ちょっと。こんな少ないんだ3連敗。じゃ、すみません、4人の方、私とまたじゃんけんしてください。最初はグー、じゃんけんぽん。チョキです。パーの方、2人。じゃ、お2人でじゃんけんしてください。すみません。恐れ入ります。じゃ、舞台の上にお願いします。拍手でお願いします。初めまして。どちらのPTAの。お名前を伺っていいですか。

下山:川和高校PTAの下山と申します。よろしくお願いいたします。

大島:川和高校PTAの下山さんですね。勝負弱いタイプですか、割と。勝負弱いタイプ?

下山:いろいろです。

大島:ま、いろいろ。そうですか。この中で1人になるってすごいことですから、また何かいいこともあるかもしれませんね。では今から下山さんにちょっとお手伝いをいただきましてコミュニケーションのゲームをしたいと思います。

 私が今から、下山さんだけにある図形を見せます。で、その図形はこの枠の中にあるんだけれども、下山さんはそれをみんなに分かりやすく説明してください。で、皆さんは下山さんの説明を聞いて実際書いてみてください。参加型ですから。いいですか、正しく書けるかどうか、自分のコミュニケーション能力を測ってみてください。よろしいですね。下山さんは何をおっしゃっても構いません。「三角書いて」って言ってもいいし、「長い線を引いて」って言ってもいいです。1つだけやっちゃいけないことがあります。ジェスチャーはしないで。まずこんな形書いてっつったらみんな書けちゃうんで、口で分かりやすく言ってください。ではお願いします。

下山:紙の中央ら辺に図形を5個描いてもらいます。紙の真ん中に5個描いてもらいます。上から順に丸、四角、ひし形。で、下に。ちょっとタイムしてください。先生、これ。まずい、皆さん消しゴム持ってないですよね、どうしよう。皆さん、薄めにまず描いといてもらって、最後に訂正で濃く描くようにしといてください。初めっから濃く描かないでもらってもいいですか? だんだん心配になってきちゃった。

 ごめんなさい、もう一度いきます。まず紙がありまして、それを縦に3等分の線を薄く入れてください。縦に3等分、そうですね。3等分してもらった線を薄く入れてもらって、薄くです、これは。そしてそこの中央の部分だけに図形を5つ描いてもらいます。じゃあちょっと、一回だけ話を聞いてください。それまずいのか、先生。趣旨違っちゃうかな? はい。

 ジェスチャーはいけないっていうことなので、上から順番に1、2、3、4、5と描くんですが、上の2つの図形はまっすぐ並べてもらって、3、4個目はその図形よりもちょっと右寄りに描いてもらって。最後の5個目は4個目と同じ位置になります。一番上が丸、その丸のすぐ下が四角、正方形みたいな、正方形で。すごい細かいこと言うと、横が長くて、縦が気持ち短い正方形なんですけど。で、この図形5つは全て1点でつながってます、1点だけ接点があります。空けて描くんでなくて、1点だけ接点がありながら、5個埋めてもらいたいと思いますが。

 まず一番上が丸、その下に、その底辺の部分と四角の上の部分が接点になりまして、正方形に近い四角。そして3個目の図形はその正方形の右下の角とぶつかりますが、その3個目の図形はひし形のような配置で。だから四角を斜めに置いてください。90度、こう回す感じ。ああ、ジェスチャーしちゃいけないんだ。上から2番目の四角の右下の角と3番目の四角の左上の辺が、まあくっ付いてる感じになります。

 そして3番目で、4番目がそのひし形の下の点の角とくっ付いて丸い図形になります。そして丸の図形の左を接点にしてもらって、2番目の四角と同じ四角が書かれます。なので、図形5個が上から順番に、丸、四角、ちょっと右下にひし形、その下に丸、左側に四角。こういう感じの配置になります。伝わっていただけた方は濃く描いてみてください。すみません、難しかったです。

大島:はい。下山さん、どうもありがとうございました。素晴らしかったです。もう一度拍手をお願いします。非常に丁寧に説明していただいて、素晴らしかったです。あれだけ分かりやすく説明したので、皆さん答えもう分かってますよね。それでは出しますね。言ったとおりやん。どうです? パーフェクトの方、ちょっと手上げてください。完璧に書けたよ。あっ、そんなにもいないね。ああすごいですね、鎌高軍団すごいですね。はい、ありがとうございます。

 下山さん、たぶん20人ぐらい分かってくれたみたいです。そうか、でも、どんなの書いたの、じゃあ手上がんない人は。ああ、いいじゃないですか。ちっちゃいの書いたね、ずいぶんね。ちっちゃいの書いたね。ああ、大きいの書いた人もいるね。惜しいですね。なるほどね。

 皆さんもいろいろ言い分はあるんでしょうが、なかなかすっきりパーフェクトってわけにはいかなかったみたい。これだけのことを伝えるのもなかなか難しいですね。今のゲームの中に人にものを分かりやすく伝えるためのコツのようなものが入っておりますので、ちょっとそれを確認していきたいと思います。

 元のページに戻ってください。「わかりやすく話すための8箇条」。①大枠から話す。下山さんの出だしがすごく良くて、「図形を5つ描いてもらいます」って言ったのはすごい良かったんですよ。これいいな。「上から順に丸、四角、ひし形」その辺まで良かったんですけど、「薄い鉛筆で描いてくれ」って言い出した辺りから、3等分しろとか、何かいろいろ、頭のいい人だからたぶん正確に書かせるためにいろいろ言ったんですけども、皆さんからするとかえって難しくなったでしょ。すぱっと言い切っちゃったほうがいいんですよ。人はこういう順で知りたいと思っているのね。概要が先で細かい話は後ね。結論が先で理由は後です。

 例えば今のやつだと、図形5つってとこまではすごい良かったんだけど。「じゃあ、これから皆さんに図形を5つ描いてもらいます。図形は丸が2つ、正方形が2つ、ひし形が1つで、全部で5つです。積み木みたいに縦につながっているイメージを持ってください。では一番上から説明していきます」とか言うと、分かりやすいです。ざくっと全体の話が分かると人は話が聞きやすくなるんですね。全体像が分かんないうちに、薄い鉛筆にしろとか、後から書き直せとか、3等分しろとか、一つ一つは離せとか、なんかいろいろ言うと、その辺のディテールはいいから、まず全体としてはどんな感じなのって聞きたくなる。人の聞きたい順に話すというのが、分かりやすい話の基本です。

 2番目、「具体的に話す」です。ちょっと皆さんの、特に前のほうの方の図形を見ていったんですけど、割と大きめに書いていた人、小さめに書いていた人がいて。確か、そちらのほう男性で米粒みたいなちいちゃいの書いていた人がいました。こういうの書いてた人もいるし、結構大きく書いてた人もいます。人の勝手だね。人の勝手でしょ。下山さんは丸を書けっておっしゃったので、こういう丸を書くのも人の勝手だし、こういう丸を書くのも勝手じゃない。だけど、実際にはそれなりの大きさみたいのがあって。でも、その答えを知ってるのは下山さんだけだから、下山さんが言わなければ、皆さんは勝手に大きい丸を書いたり、小さい丸を書いたりする。物事は何事も具体的に話さなければいけません。今のやつも、直径5センチぐらいの丸を書いてちょうだいって言えば、こんなの書く人やこんなの書く人はいなくなります。

 いいですか。例えば皆さんのPTA活動に例えたら、「あっ、今度会計処理しなきゃいけないから、領収書がある方はできるだけ早く出して」って言うじゃない。これもちょっと危険な言い方だね。できるだけ早くっていうのは人によっていろんな解読があるから、まじめな人は、もう翌日に。1週間ぐらい平気だろう、まあ来月までにはねとか。まあ今年いっぱいでみたいな。いやいや、とてつもない人いますよ、時々。私も時々あきれることあるんですけど。だったら最初から、領収書は来週の火曜日までにお願いしますって言ったほうがよっぽどすっきりしますよね。あいまいにしといて、後から自分の思い通りにならなくて、なんかあの人、何考えてんのか全然分かんないとか言っちゃうんですけれども、最初から具体的に言えば、別に悪気があるわけじゃないし、火曜日って言えばたいていの人は出してくれますよ。自分のメッセージをあいまいにしないように心掛けることが大切かと思われます。

 「わかりやすく話す」3番目、「話を構造化する」ということで、こんな話は駄目でこんな話をしましょうということで。私、今日のテーマとはちょっと違いますけれども、大学ではプレゼンテーションの授業、学生にね、発表の仕方とかを教えます。で、「みんな、プレゼンのコツは話を3つ作ることだよ」って教えています。で、この自分の話を3つに構造化するっていうのは別に私が適当に考えたのではなくて、ちょっと大げさに言いますと、古代ギリシャの修辞学、弁論術の時代から「3点絞り」っていう話法があるんです。話は3つに絞ると相手に伝わりやすい。これ、古代人の英知です。で、今のやつを3点絞りでやってみますと、「正しい図形を書いてもらうのが目的です。3つのポイントで説明します」。

 まず1つ目、この図形の数、種類、大きさなどの説明をします。次に「この図形、つながり方が難しいので、ちょっと先にそれを説明しちゃいますね、まだ書かないでね。最後に上から順に言っていきますので、一緒に書いていきましょう」とか、そんなふうに構造化すると分かりやすくなると思います。

 で、構造化はいつもこういう形とは限りません。例えば物事って、過去、現在、未来みたいに時系列で説明すると分かりやすいこともあるし、A案とB案を対比してメリットデメリットって整理すると分かりやすいこともある。要は、図に描けない話はしないということです。自分の話がどういう構造になっているのかよく考えながら、先の見えない話、とりとめのない話、構造が分かりにくい話は相手をイライラさせてしまうので。まあ、私も酔っ払ったらとんでもない、とりとめなくなってしまうんですけれども。普段のコミュニケーションでは図に描けない話はしないということをご理解いただければと思います。

 私、年間に大体60回ぐらい講演させていただくんですけれども、いろんな経験があるんですが、例えば公演が終わってから、ちょっと質問コーナーに多少クレームみたいなのが入ることもあるんですよ。ある大企業の幹部の人の前で今日のような話をした時に、終わってから初老の男性が手を挙げてこんなことをおっしゃいました。「今日は大島先生のお話、なかなか面白くてどうもありがとうございました。なかなか良かったんだけど、ちょっと1つ気になったのは、途中で図に書けない話はするなっていうのが出てきたでしょ。あれはちょっとどうかなって思いましたね。まあ私ぐらいになりますとね、いろいろと微妙な話が多いんですよ。そんなきれいな図になったら苦労はありませんよ」と、こう言われました。たぶん偉い人なんでしょうね。分かる、分かる。でもね、皆さんの頭の中で微妙な話、聞かされたほうはもっと微妙。で、やっぱり微妙な話はしちゃいけないんですよ。これ微妙だなって思ったら、まだそれは皆さんの頭の中で整理整頓が終わってないことだから、整理整頓が終わってないのにしゃべっちゃ駄目ですよっていうことです。ちゃんと整理して形にしてからしゃべることが重要です。

 「わかりやすく話す」4番目、「自信を持って言い切る」こと、そして相手の反応に合わせてゆっくり話すことも大事ですね。で、すごく説明が下山さん上手で、頭の切れる方なんで、ぱぱっといっぱい言うんですけど、皆さんちょっと、ちょっと待ってみたいな感じでした。なぜそうなるのかというと、やはり私たちの話ってね、どうしても早くなりがちなんです。

 面白いデータがありましてね、皆さんの世代だと、たぶん大学行ってた人は大学の教授なんて気楽な商売で、よく分からない理由で休講していたみたいなイメージがあるじゃないですか。今はもう大変なんですよ、ほんとに。休講したら必ず補講しなきゃいけないし、あと全部の授業でアンケート取られちゃうんですよ。あの先生は板書が汚いとか。もうむちゃくちゃで大変ですよ、ほんとに。でね、もうそういうあんまりお薦めできない職業に最近はなってきたんですけれども、九州にある熊本大学ってあるんですけど。まあ国立のね、旧制五校、大変名門大学です。その熊本大学で面白い研究が発表されました。それはね、熊本大学の学生のその授業のアンケートを調べて、3,000人分のアンケートを分析して、どんなところに不満があるのか。さっきの板書が汚いもあったけどね。どういうところに不満が多いのかっていうのを分析したんですって。

 いろんなクレームがあって、教える側もちゃんと予習しろとかね。昔話ばっかりするなとか。教科書の朗読はしなくていいとか。めちゃめちゃいっぱい苦情があってそれが書かれたのですよ。さて、断トツで多かった意見があるんです、1つだけ。何だと思います? 九州の名門、熊本大学の学生の授業に対する不満のアンケートを分析したら、たった1つ極端に多い意見があった。それは「先生の話し方が速過ぎる」だったんです。もっとゆっくりしゃべってほしい。速くて付いていけない、速い、速い、速いのオンパレードだったそうです。

 なぜそうなるか? 話し手と聞き手には脳の情報処理の時間に差があると考えられるからです。さっきの話の落ちですが、その熊本大学のアンケート、先生の話し方が速いよって文句言ったのは、3,000人中300人ちょっといたんだって。で、その逆、教授の話し方がゆっくり過ぎてイライラするって書いた学生は0だったんだって。

 「速えーよ」って文句のほうが圧倒的に多いんです。なぜならば、話す人は知っていることをしゃべり、聞くほうは知らないことを聞くんです。話すほうが自分で調子良く気持ち良くしゃべれば、たいてい速いというふうに受け止められる。これは私たちが人とコミュニケーションを取るときにちょっと覚えておいてよい事実だと思います。変わりばんこに会話してるときはいいんですよ、変わりばんこだからね。だけど、一方的に少し説明しなきゃいけない場面とかあるじゃないですか、そういうときは是非ゆっくりめを心掛けていただきたいと思います。

 「わかりやすく話す」の6番目、「相手の土俵に立って話す」。先ほどから、分かりやすい、分かりやすい、ね。これ学校でも大事なことですよね。子どもが授業はよく分かったとか。最近、数学が分からないとか。分かるって何でしょう? 人はどんなときに分かったと感じるのでしょうか? 分かる分からないは実は私の専門ではありません。コミュニケーションの理論とはちょっと違いまして、認知科学とか認知心理学、もしくは脳科学に近い分野です。脳の仕組み、何をして分かったとするのか。茂木健一郎さんとかね。ああいう先生の研究分野です。

 これも学者の数だけ定義がありまして、いろんな言い方があるのですけど。今日はちょっと私の好きな「分かるの定義」をご紹介したいんですが。皆さん、人の話を聞いたときに、なるほどって腑に落ちるときと、どうもよく分かんないわねっていうときがあると思うんですよ。その分かれ目ってどこにあるのでしょうね。私たち誰でもいろんなことを知っています。ね、皆さんの脳の中にはたくさんの情報が入っています。そこに何か新しい情報が来ました。皆さんの脳が刺激を受けました。そのときにたった今入ってきた情報が、皆さんの脳の中にもともとあった情報と矛盾なく結び付いたとき、皆さんは「ああ、なるほど」って思います。今、入ってきた情報が脳の中の何とも結び付かないと、「よく分かんないな」って感じます。

 ポイントは関連付けですね。関連付けができると、私たちは分かったと感じやすいんです。私、小学校の先生方の授業研究とかにオブザーバーで行くことあるのですけれども、小学校の先生の授業、うまい下手っていろんな要素があるのですけど、一つ言えるのは、例え話がうまい先生は授業が上手ね。子どもが知っている数少ないことにうまく絡めて新しいことを説明できる先生は上手で、新しいことを新しい言葉で説明しちゃう先生はいまいちみたいな。そこは圧倒的な差があると思います。ポイントは関連付けです。

 それで、このことを分かっていただくために、これ実話なんですが、あるアメリカ人宇宙飛行士の話をしたいと思います。あるアメリカ人宇宙飛行士が宇宙旅行から帰ってきて、雑誌のインタビュー受けたんですね。その時にこんな質問がありました。「宇宙空間から地球の大気圏に突入する瞬間、宇宙船の中にどんな変化があるんですか?」っていう質問です。僕が子どもの頃なんかはね、結構、宇宙関係のアニメとかあって、パイロットが「よし、大気圏突入」とか言うと、なんかゴゴゴーってなったりするんですけど、ほんとにそんな振動があるのかとか、あるいは無重力が急にすとーんってね、そのある場所で普通の重力空間に戻るのか、分かんないじゃないですか、実際宇宙旅行してないから。

 で、その質問に対して宇宙飛行士、何て答えたと思います? 「ああ、大気圏突入の瞬間の宇宙船の中の様子ですか。まあ一言で言えばNASAの航空宇宙ステーションで受けてた訓練の感じですね」、イメージできました? 無理ですよね。私たち誰もNASAの航空宇宙ステーションで訓練受けてないし、それに近い手掛かりが脳の中のどこ探してもないので、今の説明だと見当がつかないじゃないですか。今のは関連付けが不可能な説明ですね。で、この話がさっきのゲームとどう関わるかといいますと、さっきのゲームで一番難しいのここじゃないですか。それで、ここをね、以前完璧に説明された方がいるので、ちょっとそれを再現してみたいと思います。

 「それでは皆さん、第2の図形の正方形まで描けましたね。一辺5センチの正方形描けましたね。

次に第3の図形を描いていただくんですが、第3の図形は第2の図形と全く同じ正方形です。合同の正方形ですね。その合同の正方形をまず45度回転させて第2の図形の右下の角と第3の図形の左の1辺の中点が1カ所でちょうど接するように描いてください」。完璧でしょ、完璧ですよ。でもね、その時誰も描けなかったのよ。私たちは正方形を45度回転させる趣味はあんまりないし、中点も接線もだいぶ前に卒業しましたね。もう二度とやりたくないでしょ、子どもにはやれって言うけど。そうなんです。

 そこで、この話、このゲームでね、正解率を上げるかどうかの一つの分かれ目として、これを何と呼ぶかってことなんです。これをひし形とかダイヤモンドって言った場合は正解率が高まります。ところがこれをそう言いたくない、だって先生、これ正方形だよどう見ても。でも、正方形を右斜め上からちょうどスライドさせてとか言った人もいるし、おでんみたいに突き刺せって言った人もいるんだけど。まあ、いろいろあるんだけど。正方形って言うとね駄目なんですこれ、意外とできないんです。これはひし形とかダイヤっていうみんなが知っているものにうまく例えて、いっそそういうふうに言っちゃったほうが正解率は上がる。正方形をちょっとひし形的にとかね、まあそれぐらいでもいいんですけれども。あんまり正方形にこだわるとうまくいかない。これが相手の土俵に立って話すということの一つのヒントになるかと思います。

 さて、下山さんのご協力によって、「わかりやすく話すための8箇条」のうち6箇条を導き出すことができました。あとの2つはちょっと違うので、ここでまた別のクイズやりたいと思います。ビオトープ、レセプト、フィクサチーフ、SEO何のことだか分かりますか? ちょっと皆さん、ざっくりで結構なので、ざっと手を上げていただいてもいいですかね。この言葉をこの会場のどのくらいの方が認知されているかちょっと知りたいです。いいですか。

 それではビオトープが分かる方、手を上げてください。はい、ざっと5分の1ぐらいですね。ありがとうございます。レセプトが分かる方。これは多いです。7割ぐらいです。フィクサチーフ分かる方。ああ、ずいぶん減りました。でもなんかプロっぽい方が手上げてますね。ありがとうございます。SEO、インターネット関係。意外と少ないな。SEO、インターネット関係の言葉であんまり聞かない? ありがとうございます。3割ぐらい、7割ぐらい、ほんのちょびっとっていう認知でした。

 実は今ここに書いた言葉はそれぞれの業界で基本中の基本の言葉ですね。ビオトープは環境関係ですね。私は神奈川県の藤沢市に住んでいます。ようこそ皆さん神奈川へ。で、その神奈川県藤沢市の小学校には屋上ビオトープっていうのが今、作られています。ビオトープというのは自然環境を人工的に作り出した空間のことね。小学校の屋上にわざと池を作るんです。その池も高級なニシキゴイがいるような人工的な池ではなくて、汚い藻が生えててボウフラがいるような池です。何でそんなもんわざわざ作るかっていうと、それがもはや藤沢市は都市化していてそういう環境がないので、わざわざ作るんです。子どもたちに勉強させるために。ビオトープ、環境問題やっている人にとっては基本中の基本の言葉です。

 レセプトは医療関係ね。診療報酬請求書。私たちが病院で診療を受けて、たとえ1,000円払ったとしてもそれは全診療費の3割にすぎません。われわれ現役世代は全員3割しか払ってない。日本は国民皆保険制度ですから、残りの7割を健康保険組合が払ってくれなければ、どのような医療機関も一日たりとも経営できません。残りの7割払ってちょうだいねっていう書類をレセプトといいまして、医療関係の人にとっては基本中の基本の言葉ですね。

 フィクサチーフはデザインとか美術の世界ですね。きっと美術の先生とかもいらっしゃるかと思うのですが。例えばイラストレーターが、これ看護師さんかな、看護師さんのイラストを手描きで描いたとしてね、この商品を納入するときに必ず上からフィクサチーフをかけます、シューって。スプレーね。コーティングするんです。だってこれ飯の種だから、サイン変えられちゃったり、色を消されちゃったり、トリミングされたりしたら困るので確定させるわけですね。そういう定着液のこと。英語のfixからきている。殺虫剤みたいなスプレーでシューってかけるやつ。それがフィクサチーフです。デザインとかイラストとか美術の世界では基本中の基本。

 SEOはウェブです。例えば皆さん、皆さん自身がですよ、お子さんじゃなくて。じゃあ、高校の同窓会の幹事になったらどうする? 桜木町の駅の近くでみたいないろいろ設定があって、女の人が最近多いからイタリアンにしようよ、飲み放題がいいね、貸し切りでとかみんな好きなこと言うけど、そんな店普通知らないじゃない。桜木町から歩けてイタリアンで40人から50人入れて、飲み放題ができる店。はい、見つかんなかったとき、皆さんどうします? 取りあえずネットで検索しませんか。googleとかで。

 SEOというのはそういう検索エンジンにいかに引っ掛かるかという技術です。だってgoogleで引っ掛かってクリックしてもらったら自分のお店に来てくれるかもしれないじゃない。サーチエンジンオプティマイゼーション、検索エンジン最適化という技術ですね。21世紀のマーケティングの肝と言われています。みんな何でも検索するから。Yahoo!やgoogleで検索してちょっとでも上に出たい。どんな企業もそう思ってます。

 皆さん私の勤めている大学、もう覚えていただけましたか。ありがとうございます。じゃあ、首都圏の高校生がね、東京工芸大学に興味を持ってくれたとして、東京工芸大学ってgoogleで検索したとするでしょ、何が起こるか知ってます? 東京工芸大学で検索したのにライバルの東京工科大学が上に出ちゃうんです。これ陰謀ですよ。いや、東京工科大学さんはSEOにめちゃめちゃ金をかけていて、少しでも上に出るように、似た名前だと。でも、それで釣られてクリックするかもしれないじゃない。そういうのをSEOと言います。

 それで、何が言いたかったかっていうと、ここに出たような言葉、それぞれの業界では基本中の基本の言葉なんだけれど、やっぱり自分と関係ないと知らないでしょ。やっぱりね、知らず知らずのうちに専門用語とか自分がなじんでる言葉、使っちゃいがちなんだけども。人は話の中に自分の知らない言葉が出てくると、それだけで不快な気持ちになりやすいものです。この言葉大丈夫かなっていうのをやっぱり考えてほしいんですね。

 私も何度も経験がありまして。例えばこの近くで言うと、横浜市役所で講演させていただいた時に、職員の方が「先生の講演面白かったから、今度私たちの勉強会に来てくれませんか?」っておっしゃったんで、「ああ、近いですし、いつでもいいですよ。どんな勉強会ですか?」って聞いたらね、「生保の人との対応の仕方を考える勉強会です。先生、生保の人ってやっぱりコミュニケーション的にも難しいですよね」って言うんだけど、生保の人の意味が分かんなくて。はい、後から勉強しました。役所の人が生保の人と言ったらそれは生命保険じゃなくて、100パーセント生活保護の人だなって。

 で、役所の人は生活保護という言葉は使わないようにトレーニングされていて。生活保護って言うとみんながぴくってなるじゃない。プライバシーにも関わるでしょ。だけどそれ言わないと仕事が進まないような部署の人は生保の人っていうふうになってるんだって。だけどそれを、経営学の教授の僕に言っても分かんないだろうっていうことが意外と分かんないんだね。役所の人は自分でいつも使ってるから。こうしたことはどんな業界にもあります。

 保育園に行った時もびっくりしたことがあってね、保育園の先生方の前で講演したのね。で、終わってから園長先生に「僕、ちいちゃい子ども好きなんで、ちょっと子どもたちが遊んでるとこ見て帰っていいですか?」って、「いいわよ」って。「先生、この部屋は何かおっきい子が多いですね」って言ったら園長が「この部屋はイジョウジばかりだから」、「イジョウジなの?そんな異常に大きかったかな?」。

 保育園はね、3歳以上の子を「以上児」って呼ぶんです。3歳以上になると先生の数が減らせるんですよ、行政の関係でね。で、3歳未満だと先生が多く配置しなきゃいけないんです。だから、保育園の経営にとって3歳以上が何人いて、3歳未満が何人いるかが大事なので、3歳にいってる子を「以上児」、なってない子を未満児っていうんですけど、未満児も肥満児に聞こえるんですよ。みたいなのがどんな業界にもあります。やっぱりこの言葉大丈夫かなっていうのを時々視野に入れるとよろしいかと思います。

 最後の「わかりやすく話す」8箇条目。「タイムマネージメントを常に意識する」。

人間の持ち時間は24時間です。皆さん、人の話を聞いていて「ああ、長いなあ」って思う経験ありませんか。例えば結婚式のスピーチが長かったとか。私もね、忘れられない結婚式のスピーチがあって。教え子の結婚式出たら、僕は新婦のほうのゼミの先生だったんだけど、その新郎の上司みたいな人が乾杯のご発声だったんですね。さっさと乾杯って言えばいいのに、なんかグラスを置けとか、みんなにグラスを置かせていろいろエピソードしゃべり始めたんですよ。で、まあ、ありがちで、もうあまりにも長いのでさすがにちょっとないなと思って時計見たらその人何分しゃべったと思います、乾杯のご発声で。7分でした。7分というのは微妙ですよね。長いっちゃ長いし、別に7分ぐらいって思うでしょ。でもね、地獄のように長く感じましたね。

 皆さん、私の話をかれこれ1時間も聞いてるんだけど、何で耐えられるか分かりますか? 話が面白いからですか? 違いますね。皆さんが私の話に耐えられる理由は終わる時間が決まっているからです。そうじゃないと聞けないでしょ。この先生、僕の話が1時に終わるのか2時に終わるのか分からない状態で聞けます? 駄目だよね、それは。やっぱり何時までしゃべるってすごく大事なんですよ。予告して守ること、何事も。人間はですね、「この会議は1時間だ」、「この講演会は30分だ」ってわかると無意識のうちにタイマーをセットしてるんです。そして緊張感を配分します。だから疲れないんです。いつ終わるか分かんない話は緊張感が配分できないので、とても長く感じるし疲れます。

 例えば皆さまがPTAの会合とかで会議を始めるときも、もしかしたら終わる時間が気になっている方もいるかもしれません。「じゃ、皆さんお忙しいんで1時間半でちゃっちゃと終わらせましょうね」って言うべきです。やっぱり議長の方は。それがもちろん延びちゃって「ごめん、10分延びちゃったね」、それは構わないと思いますが、お互いにやっぱり人間の持ち時間って決まっていますので、人の時間を使うときは何分までしゃべらしていただきますとか、この会議は何分までに終わらせましょうとか、そういう時間感覚を持って相手に伝えることがとても大事ではないかなと思います。

 経営学者のピーター・ドラッガーという人がいまして、「時間こそが人間が持っている最も重要な資源である。そして最もその重要性が見過ごされがちな資源である」という言葉を残しています。確かに私たちは仕事するときも、何時から何時まで、その自分の時間を売ってお金をもらうとかね、そういう部分もあるので、あなたの時間を大切にしていますよっていうメッセージを発することが大切なのではないかと思います。

 最後にここのところの終わりで笑い話を1つしますと、さっき結婚式の話が長いって言ったじゃないですか。で、大学生にも聞くんですよ、「君たちが今まで聞いた話の中で一番長かったのは何?」って。で、大学生は結婚式とかあんまり出たことがない子が多いですね、まだね。なので、結婚式のスピーチとは言いません。大学生に「君たちが今までに聞いた話の中で一番長かったのは何か」と聞くと、ほとんどの大学生は「校長先生のお話」って言います。校長先生のお話もたぶんそんなに長くないです。だけど、校長先生のお話というのは、人が一生で一番最初に出会ういつ終わるかわからない話だから、やっぱり子どもなりに、授業は45分ってわかってるけど、校長先生の夏休み明けのご挨拶がめちゃめちゃ長いみたいな。「みんなの真っ黒な顔見て先生うれしいです」みたいなあれですよ。あれが長いと…。

 そんな笑い話を含めまして、前半、間もなく10時35分になります。10分ほど休憩を入れさせていただきまして、そうですね、じゃあ10時45分から再開とさせていただきます。それではご休憩ください。ご清聴ありがとうございます。

葛山:先生ありがとうございました。それでは休憩に入らせていただきます。

<休憩>

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