第63回 関東地区高等学校PTA連合会大会 神奈川大会

平成29年7月7日(金)8日(土)
関東地区高等学校PTA連合会 神奈川県立高等学校PTA連合会

第6分科会 学び行動するPTA

1部 2部 3部

「自己肯定感とは何かを学び、やる気の育成を支援する」

講 師
株式会社東京個別指導学院 個別指導総合研究所 寺田 拓司
テーマ
「自己肯定感と自己効力感 高校生のやる気と親心」

田中:皆さま、おはようございます。

会場:おはようございます。

田中:朝早くから分科会にお越しいただきありがとうございます。私は本日第6分科会の司会を担当させていただきます神奈川県立上鶴間高等学校平成28年度PTA会長、田中美奈子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)ありがとうございます。

 初めに開会のあいさつを関東神奈川大会実行委員の馬場大雄より申し上げます。

馬場:皆さん、こんにちは。

会場:こんにちは。

馬場:本日はお暑いなか、こちら第6分科会に足を運んでいただきまして本当にありがとうございます。本日は第2部のパネリストの相談のなかで神奈川県教育局生涯学習課課長、堀端保聖さま、また、関東地区高等学校PTA連合会副会長、大木幸夫さまに来ていただいています。どうもありがとうございます。

 また、本日この第6分科会は株式会社東京個別指導学院さまの全面的なご協力により行うことになっております。どうもありがとうございます。よろしくお願いいたします。

 そして、第6分科会を運営しておりますわれわれスタッフですが、神奈川県の相模原地区で運営させていただきます。相模原地区と言いますと、こちらと同じ神奈川県ですけども、横浜のような大都会ではございませんで、うちの学校の近くにはクマが出たようなところもある非常に自然の緑豊かなところにあります。また、昨日全体会のなかで触れられたと記憶しているのですが、障害者施設の襲撃事件があったところでもあります。

そのようないいイメージの事件がないものですが、われわれは今日頑張ってそのイメージを払拭できるように皆さんに楽しんで帰ってもらえるように頑張りますので、どうか一日よろしくお願いいたします。

田中:はい、ありがとうございます。ここで本日の日程をご説明をさせていただきます。大会要項60ページをご覧ください。記載の内容に従いまして分科会を進めていきたいと思います。本分科会は3部構成になっております。初めに第1部で講演を約45分。休憩を挟んで第2部ではパネルディスカッションを約40分。そして第3部で本分科会のまとめ講座を約20分していただき分科会は終了となります。なお、分科会終了とともにこの会場で関東神奈川大会の閉会式を行いますので、そのままご参加いただきますよう、皆さまご協力よろしくお願いいたします。

 ちょっと緊張しております。今、私も馬場も大変緊張感があふれているので、ぜひ会場の皆さまに盛り上げていただけたらなと思っております。よろしくお願いいたします。

 それではこれより第6分科会を始めます。第1部の講演のテーマは「自己肯定感と自己効力感 高校生のやる気と親心」です。講師の先生は株式会社東京個別指導学院、個別指導総合研究所、寺田拓司さまです。それでは寺田さま、よろしくお願いいたします。

寺田:皆さま、おはようございます。

会場:おはようございます。

寺田:反応があってよかった。眠くないですか? 朝早くからせっかくお集まりいただいたので、皆さまが日頃ちょっとこれはどうしたんだろう、というようなことにも触れて、できるだけ今日眠いのに参加してよかったなと思えるような内容にしたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。

 東京個別指導学院というのは学習塾なんですけれども、高校生だけで1万5,000人ぐらいお預かりしている塾なんですね。私はそこで進路指導ですとか学習動機について研究したりしています。今日皆さまは高校生のお子さまをお持ちだということで、高校生のお話について中心にお話したいと思います。

 高校生のお子さま方が社会の中心に行ってバリバリ働くような時代、そのとき世の中がどうなっているのか、ということについてまずお話をしたいと思うのですが、今年ソニー生命保険がやったアンケートがあったので、それをまず見ていただきたいと思います。親が子どもに就いてほしい職業ベスト3。何だと思いますか。わりと定番な内容なんですよね。「えー?」ということもあります? よくある内容だと思うんですよ。私はその結果よりも理由のほうに注目しました。安定してるから。命の尊さ。真面目にこつこつ働いてほしい。手に職を付けてほしい。共通しているのは何かというと、それは子どもの将来を願っている、そこに尽きると思うんですね。ところが近頃皆さまいろいろ聞いてるかもしれませんけれども、現在の小学生の65%は今ない仕事に就く、ですとか2030年までに全ての仕事の半分は消えてなくなっちゃうよ、ですとか、この10年、20年で消えてしまう仕事のなかには今、知的な仕事と見なされているものも含まれている、ですとか、2045年に至っては人工知能が人間の知能を超えてしまう、ですとか、そういった研究結果が報道されたりしているわけじゃないですか。

皆さんの何人か、いくつかはこれを聞いたことがあると思います。これは外人の調査ですけれども、日本でも野村総合研究所、こちらのほうが消えてなくなる職業はこの100個です、という発表をしています。これは興味のある方はネット等で見ていただくとすぐに検索できますので、ぜひやってみるといいと思います。

 さて、そうしてみますと、この人気職業。当てはめてみますとほとんど人工知能に代替されてしまうわけなんですよ。じゃあ、人間の仕事ってなくなっちゃうんですか? 確かにこれまでも多くの仕事が機械化によって代替されてきましたね。ところが新しくできてくる仕事というのもあるわけです。インターネットの普及でアマゾンとか楽天とかヤフーというのはこの20年ほどで出てきた企業。iPhoneが出てからちょうど10年。LINEにいたっては6年しかたってないんですね。でも皆さん知ってますよね。このように何人かは失業していきますが、仕事そのものがなくなるということはないのではないかと私は思います。

 さて、時代はどんどん変わっていきます。私はだいたいこのなりを見ていただくと想像つくかもしれませんが、結構年いってまして、だいたい30年ぐらい塾業界にいるんですよ。30年たってないんですけどね。世の中どんどん変わっていったんですね。でも保護者の方とお話していて、変わんないものというのもすごくあるということに気付いているんです。変わらないものは何かと言うと、その1つはこれなんですね。子どもを思う保護者の気持ち。これは世の中どう変わっても不変です。それを突き詰めて言うと何かと言うと、世の中どうなろうと食いっぱぐれない、そういう子になってほしいということが究極の願いというふうに思います。じゃあ、そういう子どもたちというのはどう育てていけばいいのか、ということについて考えてみたいと思います。

 最近話題の文部科学省、いろいろ言われていますが、学力の3要素というのをこの3つに区分しています。知識・技能というのは皆さんよくご存じの英・数・国・理・社の例えば単語を覚えるとか計算するとか、そういったことですね。その上に自ら考え判断し表現する力。その上に主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ力というものが定められています。文部科学省の意図としましても今のような世の中の動きを見て、このあたりの力が人工知能に代替されないと見ています。文科省はこうなんですね。人工知能に代替されないような子どもたちを育てたいという意図があります。ところがこれまでの学習というのがこの知識・技能中心で行われてきました。ところがですね、そここそが人工知能か最も得意とすることなんです。記憶領域なんていうのは人間は絶対かないっこないですね。ですから知識・技能に偏った教育を受けていれば人工知能に代替されてしまいやすいということは明らかです。じゃあ、どうしたらいいのか。現時点で人工知能の力よりも人間の能力のほうが勝っていそうな分野について力を入れていこう、ということなんです。コミュニケーションを伴う教育ですとか、答えのない問題や未知の問題へ対応する学習というのが必要だと。これこそが人工知能に代替されにくい人材育成だ、という考え方です。というわけでこれから重視していくのはこの上の2つだろうというふうに文科省でも言っています。もちろん知識や技能をなくすわけではないですが、その前提として知識・技能はあったとしても上を伸ばしたいと考えています。

 今のセンター試験、受ける方・受けない方いらっしゃると思うんですけれども、知識や技能が中心で出題されています。

ところが今の中学校3年生が高校3年生になって大学受験をするときにはセンター試験はなくなります。その代わり新しいテストが用意されていて、そこでの出題の中心になればこの真ん中の欄になると、と言われています。これまでの教育というのがどういう教育だったかと言うと、当てはまるピースをこのなかから見付けて適切な場所にパッと当てはめてください、というような教育でした。考え方として。それがどう変わるかと言うと、ブロックが100個あります。その100個のブロックを使ってみんなで協力して船を自由に作ってください。そのような発想の教育に変わっていくと言われています。解いていく問題も変わります。先生が出した正解のある問題を出題者の意図を忖度(そんたく)して効率的に解くと。ですから皆さんも経験あると思うんですが、高校で学んだことを社会に出てから直接役立たなかったこともたくさんあるじゃないですか。で、これからはそうじゃないよ、ということなんですね。自分たちで探した正解のない問題をみんなと協力して試行錯誤しながら解くと、仲間と協力して課題を発見して何が問題点なのかなというのを見付けて、それを解決していくというのは社会に出てからこそ必要とされますから、これこそ直結する力ではないかと。そのように学習の内容を変えようとしています。

 教室の雰囲気も変わります。今までは、私もそうだったんですけど、黒板があって同じ方向に生徒が座って先生が板書したものをみんなで必死にノートに取って覚える。そのような授業でした。これからというのはみんなで役割分担して調べて考えて議論して、まとめて発表するような学習。ワイワイやってるんですね。そのように教室の雰囲気も変わっていく。実際もう変わりつつあります。ですから、学習のイメージが今までは1人でやるもの、先生に言われたことをしっかりやればいい、だったのが、これからの学習というのは個人の学びというのはなくならないんですが、みんなで役割分担をして意見交換をして能動的に学ばなきゃなんない。このようにイメージが変わってくるというふうに考えてください。というわけで、自分の頭で考えて行動できるかどうかで人工知能に代替されにくい職業に就けるかどうかが決まると言われています。

 こちらをご覧ください。親友と最近連絡が取れません。どうやら親友はひどく落ち込んでいるようです。何度か連絡を試みた結果ようやく明日親友と会って話すことになりました。そこではどのようなやり取りが2人の間で繰り広げられるでしょうか。これ、何かと言うと、慶應大学の入試問題だったんです。この2人ってどういう関係で、どういうことが親友が困っていて、それに対してあなたはどう考えて何を伝えますかということが問われています。慶應大学さん、ずいぶんとひねくれたことをするね、と思われるかもしれませんが、こちらもご覧ください。あなたの友人はいつも1人で家にいてテレビを見たりゲームをしています。友人は外出せず誰とも会おうとしません。あなたはその友人を心配しています。その友人がすべきと思われることについてアドバイスする手紙を書きなさい。引きこもりが好きなのかどうか似たような出題ですね。これ、今年の一橋大学の入試問題です。もちろんこれ、英作文なんですけどね。ただ、英語が書ければこれって合格点取れるわけじゃないんですよ。そうではなくて、英語を使って何が書いてあるかが問題なんですね。つまり何が必要かというと、共感して自分で考えて自分で判断して自分で発信する。その力が大事だよ、という大学からのメッセージなんです。

 じゃあ、どうしたらいいのかという話になります。そこでちょっと個人的なお話をしていきますとね、30年ぐらい学習塾をやっていて同じ学校に通っていて今の成績が同じぐらいの生徒さんでも、みんなに成績上がってほしいんですけれども、残念ながらそうではないんですよ。

不思議なことにぐんぐん伸びる生徒さんと、なんか伸び悩んでるな、という生徒さんが実はいるんですね。不思議なことに。なぜなのか。保護者の方とお話するとよくこの話題が出ます。やってないからでしょうと。量の問題。確かに、まずそこは目にはいきます。重要な要素です。学習の質の問題。集中してますか?とか。そういったことっていうのはもちろん大事です。ところが、それでもなお差がつく部分というのはあります。で、前提となっているのは学習習慣や生活習慣、つまり眠いまんま勉強していたらいくら机の前に座っていて頑張ろうと思っていても頭に入ってきませんよね、ということを言うと納得していただけます。

 ところがですね、それでもそこまでの条件が一緒でも差がつく場合があるんですね。なぜなのか。親の遺伝? もしかしたらそうかもしれませんけれども、そうじゃない部分というのも実はあるんですね。それが何かというと、非認知能力というものです。これが成績の伸びに大きく影響すると言われています。非認知能力というのは何かというと、例えば真面目さとか好奇心とかコミュニケーション能力か、協調性とか、情緒安定性とか。数値では測りづらいものですけれども、実は大人になってからも大事な力ではないでしょうかね。文部科学省のほうでもこの学力の3要素のベースになるものは非認知能力だということは報告書の中で触れています。実はここが大事なんだということも触れてます。例えば知識・技能というのは詰め込み学習をしたり先取り学習をしたりすれば一時的には良くなるんですけれども、ここって人工知能がとっても得意なところだからすぐ追いつかれちゃって、すぐ逆転されちゃいます。ところが今後重視されるこの上の2つの段については実は非認知能力があるかどうかで差がぐんと開くと言われています。特にそのなかで自己肯定感と自己効力感、今日の話題の中心になる部分、ここがキーになってくるよ、と思われます。

 では、自己肯定感とは何でしょうか。私はかけがいのない存在だ。いいところも悪いところも引っくるめて、「あ、もう受け入れられている」という感情。これが自己肯定感です。教室で生徒さんを見ていると、自己肯定感が高い子か、そうでない子かというのはだんだん分かってきます。例えば褒めたときに、ある生徒さんは「いや、先生、そんなこと褒めていて、実はもっと宿題やらせたいから、こうやっておだててるんでしょ」と言う生徒さんいます。単純に「先生、ありがとう、うん、私頑張ったから」というふうに返してくる生徒さんも、素直に返してくる生徒さんもいます。もっと顕著なのは、失敗したときとかうまくいかなったときにどういう反応を示すか。必要以上に落ち込んでしまう、「もう、僕は駄目だ」というふうに落ち込んでしまう。「ああ、もう、先生、自信がないから、今日の小テストはやめてください。来週までに延ばしてください」と言ってくる子もいれば、「あ、もう分かんないところは分かんないところでしょうがないから、そこをはっきりさせたいから、うん、こんなにバツがたくさんあったから、これ、勉強すればいいのね、返って勉強の効率がよくなっちゃった」というふうに言ってくる生徒さんもいるんです。どっちが自己肯定感が高いかというのは分かりますね。そして、どちらの生徒さんのほうが今の成績が同じでも伸びやすいかというのは想像つきませんか。

 自己肯定感を高める上で最も大事なことは無条件の愛をどれだけたくさん注がれたかどうか。これが影響します。駄目な部分も含めてありのままの自分を受け入れてくれたかどうか。今受け入れられていると感じているかが左右します。自己肯定感が不足していると、例えば間違えたら大切な人に見放されてしまうのではないかという不安にさいなまれます。

間違えたら𠮟られると思っていたら、これから正解のない問題とか、やっても答え出ませんでしたとか、そういうことに取り組まなきゃなんないのに、取り組めますか?ということなんですね。

 反対に自己効力感について次にお話してみたいと思います。自己効力感というのは簡単に言うと「やればできる」という気持ちです。自己効力感が高いと、やってみようと思うんですね。やってみようと思うからやるわけですよ。やってみたら、もちろんできないときもあるけれども、できるときもある。できたら「ああ、やってよかった。やればできた」という気持ちになります。そうすると自己効力感は高まります。この成功体験の繰り返しが自己効力感をどんどん、どんどん醸成していきます。そうしますと、多少のことで失敗をしたりとか壁にぶつかったりしても自分の能力を信じて、簡単に言うとへこたれない子どもが育っていくということです。ですから、うちの子はなかなか意欲がないとか、ガッツがないとかいう場合は実は熱血少年だから、熱血少女だからということではなくて、自己効力感がどれだけ身に付いているかどうか、その差なんだなと思っていただいたほうがよろしいのではないかと思います。自己効力感があればこそ答えのない問題をやってみようという気になるわけですね。

 学びに向かう力というのは相対的には年齢によって変化していきます。ちっちゃい頃はただ褒めていればいいです。ただ、だんだん大きくなっていくと、皆さまのお子さま方のお年頃になってくると、目標を達成したいという意欲が学びに向かう力になると言われています。このピンクの線ですね。高校生は目標を達成したいという意欲なんですが、これはなりたい自分になりたい、夢を実現したい、という内発的な動機による学びがキーだと言われています。内発的な動機というのはこちら側なんですけれども、例えば物理が大好きな子、「将来物理学者になりたいよ」なんて言っている子っていうのはテストが終わっても物理の勉強をしてます。試験範囲外でも物理の勉強をします。私がお預かりした生徒さんでも、中学生で大学でやるようなことを一生懸命勉強していた人がいます。それは好きでやってるんですね。大学の本だから難しいんですけれども、ちっとも苦痛ではない、楽しいと言います。ところが外発的な動機、対象とする動機なんですけども、こういう目標以外の何かのためにする動機。例えばテストで100点を取ったらお小遣いを値上げしてもらえる、ですとか、赤点を取ったら部活に参加できなくなっちゃう。補習からあるから、だから勉強する。そういう場合というのはテストがあるから勉強する。テストが終われば当然勉強しなくなる。覚えたこともすっかり忘れてしまう。短期的には頑張れます。ただ、やらされる学習なのでつまりません。

 皆さま方がよくお悩みなのはこちらのケースなんですね。うちの子は物理が好きで好きで熱があっても物理の勉強をして困ってるんですというご相談は私は受けたことはないんですね。多くのお子さんが残念ながらこちらに該当しています。ただ、皆さま方だけではないんです。こちらをご覧ください。仙台市に国立大学で東北大学という大学があります。これ、なかなか合格できないんですね。一生懸命勉強しないと受からない大学です。そこの学生さんたちを対象にして、ある調査が行われました。家でどのぐらい勉強していますか。東北大の学生だけです。はい、1時間未満の人が約6割。秀才ばっかりの大学のはずなんですが、なぜかというとこれは先生に言われたとおりに暗記とトレーニングを繰り返して、見事東北大学に受かりましたけれども、受かることが目的だったんですね。だから大学での学びというのがワクワクしないから勉強しないんですよ。

もともと勉強を、全く机に向かう習慣がない子ではないはずなんですよ。でも、しなくなっちゃったのは何かというと、その学びがつまんないからなんですね。このように長続きしないんですよ。ということで、外発的な動機っていうのは今までの教育ではなんとかなりました。教え込んだりとか褒めたり脅迫したり、いろいろして勉強させることというのはできるんですが、これからというのは能動的な学びになっていくときに、内発的な学びでなければどうしようもなくなってくるということをご理解ください。

 じゃあ、この外発的な動機から内発的な動機にどのように結びつけていけばいいんでしょうか。このように私偉そうに言ってますが、東京個別指導学院でお預かりすることになった生徒さんでもやらされ感満載で塾の門をたたいて来られた方というのはたくさんいらっしゃいます。で、何をしているかということについてちょっとご紹介いたします。最初のステップというのはもちろん外発的な動機では勉強してもらうことが大事ですから、その道から入っていきます。そのときに気を付けているのはどんな簡単なことでも聞いていいよ。こんなこともお前は分かんないのか、てなことは絶対に言わない。約束するから何でも聞いてくれ。あなたは大事な存在です。私たちの生徒です、という話をずっとしていきます。で、そのかけがいのない存在なんだってことをご理解していただいた上で、あなただったらこのへんぐらいはできるはずだよ、やってみたら?というふうに投げかけをしていきます。そして実際にやっていただいて、ほら、できた。できたね、頑張ったね、というような承認をしていきます。このプロセスがなければ自己肯定感や自己効力感というのはある程度のラインまで上がっていきません。それがなければ目標だとか頑張ろうとか、何か内発的な動機に向かおうというふうにはならないんですね。自己肯定感、自己効力感ある程度高まってこそ社会のことを知ろうと思ったり、自分も社会の一員なんだなとか、それを決めるのはあなたなんだよ、ということを塾の先生との会話のなかでも聞き耳を立てるようになってきます。そうして初めて自分も何かしたいなと思って目標を持つようになるわけですね。

 目標に持つようになったら、これはすごい教えるほうとしてはやりやすくなるんですね。というのは失敗することを恐れなくなります。ちょっとやそっとのミスでもへこたれない、根気よく取り組めますので、ものすごく勉強させてもついてきます。だって自分のやりたいことをやるために頑張ろうと思ってるんだから、負荷をかけても耐えられるんですね。というか、もっとまっすぐに進んで行ってくれます。そうすると、他者と自分の関係をより肯定的に捉えられるようになりますので成果も大きくなり、その成果も達成できるようになるので、もっと大きな目標とか、もっと難しい目標も達成できるようになるんですね。そしてそれをやってみようというふうに思うようになってきます。このように一足飛びに子どもたちの意識というのは変わっていくわけではなくて、段階を踏んでいかなきゃ成立しないということを一度ご理解いただきたいと思います。

 なぜ夢や目標を持てないのか、ご相談をよく受けます。それは社会や仕事、いろいろ知らない子どもが多すぎる。これが1つの原因です。ですから、憧れになる人や社会での役割というのを知らなければ目指そうとはなかなか思えない。というわけで、高校でPTAの方がたくさんいらっしゃいますからお分かりのように、学校でキャリア教育って一生懸命やっていると思います。中学校でも小学校でもそれなりにやってます。ただ、それでも夢や目標をなかなか持てない子というのは実はたくさんいます。先生方が悪いわけじゃないんですよ。他に理由があるということです。それはやっぱり自己肯定感や自己効力感がまだまだ不十分だから、ということだと思うんですね。自信がなかったら社会や仕事のことって考えようと思わないです。むしろ考えたくなくなります。

それから自信がなければ目指そうとも思わなくなります。そして例えば保護者の方から押し付けられたような目標であれば、それは反抗期ですから反抗しちゃいますよね。つまり目指さなくなります。というわけで自己肯定感や自己効力感を高めるということは夢や目標を持たせるための原動力でもあると言えるわけですね。

 私どもの塾にこの2月、3月までお通いいただいた生徒さん、女の子なんですけれども、その子のエピソードをちょっとご紹介したいと思います。この子ですね、漠然と小学校のときから困ってる人を助けるために新しい薬を開発したいな。したいなあ、ぐらいのレベルです。で、最先端の化学の勉強をしたいな。できるといいなあ、という感じです。でも、数学苦手だし、理科も物理ちょっと嫌いだし、てな感じでした。それなりに勉強はしていましたが、ガンガンにしてたわけじゃないんですね。言われるままにやってました、というレベルでした。彼女があるとき変わりました。高2の春のときだったそうです。担当の先生からこのように言われたそうです。あなたなら今から頑張れば可能性あるよ。可能性あるよと言ったのは何かというと、だったら東大に行って最先端の化学を勉強をすればいいんじゃない? 国内だったら。家から通える範囲だし。大変だけど狙えないことはないよ、と言われたそうです。そのとき、あなたどう思いました?って私直接聞いたんですね。この生徒さんに。え? 私なんかがそんなこと目指していいの? 東大なんて口にしたり、そんな身分じゃない、とかって思ったそうです。でも、きっかけはそこだったそうです。自分のことをよく知る人、その人からの承認。認めてくれて後押しがなかったらやろうと思わなかった。そう言っていたそうです。これっていうのは確かに数値だけを見ると、当時の模擬試験の結果を見ると、東大なんか絶対無理でした。ところが、その励ましで大きく変わったわけです。もう1つ分かったことが1つあって。東京大学に受かるような力がある子でも、こんなにも自己肯定感がないということですね。それを周りが認めてあげないと気付かないものなんだということをぜひご理解いただきたいと思います。

 まとめます。世の中というのはこれから将来は予測不能です。そのために人工知能に代替不可能な人材を育成したいと。そのために教育改革をやろうとしていて、非認知能力が大事ですよと。そこで重要なのは自己肯定感と自己効力感ですよと。で、接し方というのがポイントになりますよ、というお話をしました。

 さて、お待たせいたしました。お父さま、お母さまが何をしたらいいかということについていよいよお話したいと思います。冒頭ご紹介したこの2枚のスライド、私大好きなんですけど、保護者の切実な願いにあふれています。なんでこうなのかというと、結局こうなんですよね。皆さま方お子様のことを心配していて、将来どうなっていくかな、食いっぱぐれないように生きていってほしいなというのがあるわけです。ところが皆さま方お家に帰ると、おぼっちゃま、お嬢ちゃん方、どうでしょうか。いろいろありますよね、思うことが。一言言ってやりたいとか、カチンときたりとか、いろいろあると思います。でも、これもなんでカチンとくるのか、イラッとするのかっていうと、これも心配してるからですよね。他人の子どもがそんなことしても別にへっちゃらじゃないですか。なんで𠮟ってしまうのかっていうと、𠮟ってしまうのも褒めるのも実は子どものことを心配してるからなんですよ。なんで心配するかというと、子どものことを愛しているからなんですよね。

さっきも言いましたように無関心だったら何にもしやしないんですよね。ですから、褒めるにしても𠮟るにしても、目に見える行為自体は正反対に見えても根っこは愛しているからなんですよ。その構図というのが子どもに通じている場合というのは皆さん自覚はないかもしれませんが、案外あるんです。高校生ぐらいになるとご家庭で見せている顔と学校や塾で見せている表情というのは全然違う場合というのがあります。ですから、保護者の方がすごく心配してるとか、そういったことが分かっている、分かっているけれども、どう反応したらいいか分かんないとか。分かってるんだけど、自分はどうやれば答えられるのかということが分からないとか。そういったところでつまずいてしまっているお子さんというのはいるんですね。ですから、この愛してるという構図が伝わっていれば少なからずとも子どもに通じているというふうに思っていただいて結構だと思います。

 ところがですね、こういう場合があるんですね。褒める・しかる・心配する。行為自体は一緒なんですが、そこに例えば誰々ちゃんはどこどこ大学に行ったからとか、親戚の何とかちゃんに負けたくないとか、そういう世間体や見栄が要素として含まれているというふうに子どもが察知すると、これは大変なことになります。ものすごく反発したりとか、心を閉ざします。それは愛してると感じられないからなんですね。このように接し方が左右すると言ってもこの思春期のお子さま方というのはデリケートな存在で扱い方を間違えるといろいろなことが起きます。面倒くさいんですよね。

 どういうことをしたらいいのか、ということなんですが、皆さま方に勉強の内容を教えてくださいとか、社会や大学の仕組みですとか学問の内容について一緒に調べてくださいということではなくて、子どもたちが抱えている不安とか心情を受け止めて共感してあげるということが1つ。大変なんだね、困ってるんだねってまず認めてあげるということが大事です。もう1つは自己肯定感や自己効力感を高めるということが大事です。簡単にできること、ということが1つあります。褒めることです。お子さまのいいところを一番知っているのはお父さま、お母さん方、ご家族が一番です。褒めることは自己肯定感、自己効力感を高めるために有効です。褒めようとして褒める。これを繰り返していくと短所ではなくて長所に目が行くようになります。一日1個子どもの良いところを褒めようとしたとしましょう。毎日違うことを褒めようと思ったら30個褒めポイントを用意しなければなりません。さあ、今30個書き出せますか? 厳しい方もいるかもしれませんね。でも、お子さんのいいところって30個じゃきかないはずなんですよ。ただ、それを改めて思い起こしていないだけなはずなんですね。ですから、いいところを見いだして、それを指摘してあげるということが前提です。それをぜひやっていただきたいと思います。これがお子さまにとってすごい力になります。なぜかと言うと、自分のこと、いいところをちゃんと見ていて知っていてくれるというのは子どもにとってものすごく安心感を伝えることができます。それを誠意を持って伝える。それが自信につながります。褒めるということは相手を認めて称賛して敬意を表すということです。言いたいことはたくさんあるはずなんですね。お小言言うな、ということではないです。ただ、子どもを受け止めて、よく見えてあげて、褒めることをやってあげた後でお小言はする。その順番を間違えないほうがいいでしょう。「褒めても反応しないんですよ」というご相談を受けます。ところが残念なことに、このお年頃、スルーされるのがスタンダードで、このお年頃特有のものです。

ですから、スルーされていちいちへこんでいては皆さま方大変です。むしろこう思っていただきたいというお話をしてます。誰もが通る成長過程の1つの時期なんだと。少年・少女から大人に一足飛びにはいかない、ある日を境にガラッと変わるということではないわけなんです。必ず思春期という精神的な自立のプロセスが一段加わるということなんですね。ただ、それは一過性のものです。40になって思春期の人っていませんからね。ですから、思春期を迎えて反発されていた、それはそれでいいんです。むしろ順調に思春期のプロセスにうちの子はいるんだなって安心するぐらいでいいと思います。いいところが見付からないという保護者もいらっしゃいます。でも、成長してることというのはお子さまたくさんあるはずです。お子さまが誕生するときのことを一度思い起こしてください。とにかく元気で生まれてきてくれれば、という思いじゃなかったですか。元気で生まれてくれば100点満点だったはずですね。そのあとハイハイして立っちしてしゃべって、ご飯も食べられるようになって、九九も覚えて漢字も書けるようになってってどんどん成長していってる部分というのはたくさんあるはずです。ですから、子どもは子どもなりにときどき脱線はしたりとか蛇行したりするけれども、子どもなりに必死に成長はしてる、というふうに考えてあげていただきたい。皆さまの発想として変わったのは自分たちの意識じゃないのかな。昔は子どものことだけを見ていたけれども、つい他の子どもとの比較で見ていたんじゃないかなっていうことも今一度思い起こしていただきたいと思います。

 ただ、我が子ならもっとできるはず、できないわけがない。そう思うのは保護者にとって当然の心情だと思います。親の欲ですね。あっていいと思います。ただ、順番として我が子は頑張った。だからこそあなたならもっとやれる、というプロセスのはずです。保護者なんだから𠮟っていいんですよ。どんどん𠮟っていいと思います。本音で𠮟れるのは保護者だけです。むしろ無関心なそぶりこそが最も愛のない接し方ではないでしょうか。

 これは国の機関が調査した自己肯定感の高い割合を示した表です。ご覧ください。たくさん褒めてたくさん𠮟られた子が一番自己肯定感が高いんですよね。たくさん褒められたかどうかで自己肯定感の高低が決まるということをお分かりください。ですから、𠮟ったっていいんですよ、褒めれば。

 もう1つ。高校生以上っていうのは第三者が褒めていたことを又聞きで知るのはすごくうれしいことなんです。東京個別指導学院では保護者面談というのを年に何回かやります。教室の責任者あるいは担当している先生がお父さま、お母さまに対して誰々君は最近こういったところを頑張っていて、こういうところを成長してますよ、というようなことをしています。それは先ほどお話したように家でのご様子と外での様子というのが高校生ぐらいになると全く違うから、ということもあります。もう1つの理由は、それをぜひ子どもさんに伝えてほしいからなんですね。それは子どもにとってとってもうれしいことなんですよ。塾に通ってない方でも学校の先生に例えば個人面談のときにうちの子どこか成長したところないですか?と聞いてみるといいと思います。

 とはいえ、いきなり褒めるなんて照れくさいし、恥ずかしいし、ハードル高いです、という方もいらっしゃると思います。まずは何をお願いしたいか。感謝の言葉を発し態度で表すということです。「ありがとう」ということです。ご飯を食べきってくれてありがとうとか。お弁当を残さずに食べてくれてありがとうとか。褒めポイントというのは、ありがとうのシーンというのはたくさんあるはずです。あなたがいてくれてよかったというサンキューのメッセージ。それは自己肯定感を育てます。

伝わっているだろうではなくて口に出す。口に出す機会を失ったんであれば、例えばLINEで「ありがとう」と送ってあげるのもいいと思います。

 皆さまが学校に望んでいることって何なのか。とってもいい成績を取ることでしょうか。もちろん取ってほしいですよね。でも、そのいい成績を取ってもらいたいのはなぜかと言うと、食いっぱぐれないような人生を送ってもらうための選択肢を広めるとか、そういうことだったはずですよね。そうすると、ご家庭で何をまずやっていただきたいかというと、私はこれだと思います。自己肯定感、自己効力感を育むようなことをご家庭でお願いしたいと思っています。

 皆さんもいろいろお小言を言いたいことはたくさんあると思うんですね。昨日言ってることと今日言ってること全然違うじゃないとか。口先ばっかりは一人前でやってることは幼稚園並のことをやってるね、とか。三日坊主ならまだいいほう。昨日やりだしたと思ったら今日は何もやっていない。いろいろあると思います。それは彼ら、彼女たちがまだ成長の途中、矛盾だらけで不完全な状態だからです。一足飛びにある日を境に大人になるわけではない。ですから今日から始めていただきたいのは感謝するということ。あなたがいてくれてありがとう。よかった。それが自己肯定感を育てます。褒めるということはやればできるね、頑張ったかいあるね、これが自己効力感を育てます。接し方で子どもは絶対に変わります。これは30年近く塾業界で働いてきて私がたどり着いた1つの結論でもあります。

 今の皆さんのお子さま方、小学生ではないから力ずくで机の前に引っ張っていって勉強しなさいと言っても言うこと聞かないですよね。お子さんのほうがむしろ体格的には上回っている場合もあります。もう手をかけて何かができないかもしれない。でも、子どもの気をかけて見守っていいところを見つけてあげて、声をかけて「ありがとう」と言い褒めてあげるということは今でもできるはずです。もう手をつないでグイグイ引っ張っていくことはもしかしたらできないかもしれないけれども、目を離さずに声をかけ続けることはできるのではないでしょうか。

 声なき声も含めて意識して耳を傾けて全体的に、昨日今日ではなくて全体的にいい方向に行ってるかなというときには俯瞰(ふかん)して見る視点。それから言葉で言い表す。そして相手は矛盾だらけで不完全な存在です。ときには許すということも大事です。それが親の愛だと思います。目を離さずに感謝して褒める。子どもの心を一生離さない、そんな保護者の方でいていただきたいと思います。今日からぜひやっていただきたいと思います。感謝するということと褒めるということ。接した方次第で子どもは絶対に変わります。皆さま方だったらできるはずです。ぜひ今日からやってみていただきたいと思います。長い間ありがとうございました。(拍手)

田中:寺田さま、ご講演ありがとうございました。皆さま、いかがだったでしょうか。自己肯定感と自己効力感。まずはできることから始めてみましょうというお話でした。1つ、できそうな気がしてきましたし、私も我が子に、もしかしたら今日から変われるんじゃないかと希望が出てきました。皆さまはいかがだったでしょうか。

 寺田さま、本当にありがとうございました。いま一度拍手をお願いいたします。ありがとうございます。(拍手)

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